ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

玉樹真一郎『「ついやってしまう」体験の作り方 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』_感想

 

そっか、ゲームの面白さってこういうことね

著者は任天堂Wiiの企画開発に関わった方で、人はなぜゲームに夢中になってしまうのか、という切り口から「体験」というものの仕組みを分かりやすく解説しています。

昔の子どもも今の子どももゲームが大好きですよね。それは、ゲームの中の体験を通して、自分が成長できるからなのだそうです。ゲームの面白さは、そこにあるようですね。冒頭にスーパーマリオの初めのステージのデザインが出てきます。右側を向いているマリオ。背景には山があり、マリオの右側には開けた草原があります。プレイヤーは何も教えられなくても右側に進むことに気づきます。そして最初の敵であるクリボーに出会って、それを踏みつぶしたりファイアーフラワーを取るころにはすっかり自分に満足しています。そうか、やっぱりね。こうしたら進めるんだ。

これは直感から仮説を立てて、それを実行したときに、あ。合ってたんだ!という喜びからくる大きな満足感だと思います。その都度プレイヤーはゲームの中で体験を通して成長しているというわけです。子どものころに夢中になったゲームも、今から思うと、こんなにデザイナーさんの夢中になる工夫がちりばめられていたのですね。

驚きと、物語性によって最後までプレイする

ゲームの中では、次に驚きの要素と物語性が重要。プレイヤーの期待を裏切ることにより飽きさせない工夫と、ストーリーが進むにつれてちょっと面倒な同伴者を受け入れて助ける心境…ゲームの中でプレイヤーが成長する過程こそ、ゲームのもたらす経験だと筆者はいいます。

そして、実社会でも、この経験に導くスキルが活かせるはずであると。

とにかく経験することは面白い

実社会での活かし方は本書の後半にまとめてあるのですが、正直なところ、実践にはもう少しかみ砕いたステップが必要かな、と思いました。

ですが、前半部分のゲームを通した体験とは何か、という理論は学ぶところが多く、実際に自分がやったことのあるゲームの製作者の意図を知ることができたりと、とても面白い内容でした。親御さんは子どもに、ゲームばかりしてないで勉強しなさい!と怒る前に自分も一緒に子どもと同じ目線で体験をしてみるべきですね。

実際、今の学校現場で使われているAIドリル(タブレット端末で行うドリル)は、正解すると少しだけ難しい問題を出してくれたり、3回連続で正解するとコンボのポイントがもらえたり、なんともゲーム要素満載なのですよ。

とにかく体験することは面白い。人間はそういう風にできているんだと納得する内容でした。

 

2022年2月20日 読了

 

 

片山俊大『秒速でわかる!宇宙ビジネス』_感想

 

サクッと読める宇宙ビジネスのあれこれ

昨今の宇宙を取り巻く状況がイラスト入りでわかりやすく書かれた良書です。

多分、1時間ほどでサクサクと読めますね。

昨年末にゾゾタウン創始者の前澤氏が宇宙に飛び立って、宇宙からお金を配ってましたよね。私も300円をいただきました。あれを見て、お金を持て余してるから、ついに宇宙に行くのか、くらいにしか思っていませんでしたが、本書を読んで認識が180度変わりました。これからのビジネスの熱い分野が宇宙だからこそ、世界の大富豪が宇宙に飛び立ち、自らを広告塔にしてビジネスの裾野をどんどん広げていこうとしているのだと気づきました。もう経済成長のためには地球は狭すぎるようです。

人工衛星でビックデータを集める

生活に不可欠になったGPSも、BSやCSの放送も、すべては人工衛星の仕業です。もともとは軍事利用を目的にロシアとアメリカが競争する形で開発が進められてきた宇宙技術ですが、現在では、人工衛星などの近くの宇宙は民間に、惑星探索など遠くの宇宙は国営で、という流れになり、様々なビジネスチャンスが到来しています。

人工衛星により全方向から地球の様々なデータを集めることができ、それらのビックデータをAIが解析することで、これまでにないサービスが登場する可能性もあります。イーロン・マスクやジェフ・ベソスなどのIT富豪がいちはやく宇宙ビジネスに投資する理由が良くわかりました!

宇宙経由でパリに行く?

ロケットを使って、宇宙空間を経由した移動が可能になれば、東京ーパリ間は40分ほどで行けるらしく、まずは交通手段としての宇宙空間の利用に大きな期待が持てますね。そして、すでにもう、宇宙飛行機やロケットが発着する宇宙港の建設が世界各地で進められているようです。なんてことでしょう。

さらには宇宙エレベーターという嘘のようなアイデアも真剣に研究されているようです。もうロッケトを飛ばさなくても宇宙に行けちゃいますね。

未来への投資となるか

本書の中ではコラムに宇宙投資家や宇宙弁護士、宇宙事業プロデューサーなど変わった職業の方が登場します。宇宙に関する仕事がどんどん増えてきており、宇宙ベンチャーもたくさん生まれているようです。閉塞感のあるビジネス社会の中でこれはすごいことだと思います。こうした宇宙の研究や新しい技術が他の分野でも生かされて、限りある地球資源を見直すための投資になれば素晴らしいと思いました。

宇宙から地球を眺める日が来るのかもしれないですね。

 

2022年2月19日 読了

西岡壱誠・中山芳一『東大メンタル「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』_感想

 

マインドを変えれば、地頭力も上がる!
偏差値35から東大合格して、
ドラゴン桜2』の編集担当になった僕が、
東大生に学んだメンタル・テクニック。

認知能力 ⇔ 非認知能力

本書は現役東大生の西岡氏が自身の経験を通して「東大に合格できるくらい頭がいい」というのは実際はどういうことなのかが、分かりやすく書かれています。また、教育プログラムの研究者である中山氏は、テストなどで客観的に測ることができない自制心や忍耐力、向上心などの「非認知能力」が、いわゆる学習能力である「認知能力」と密接にかかわっている点を説明しています。

先天的に頭の良い人というのはいなくて(もちろん天才といわれる方は存在しますが、頭が良いのとは少し違いますね)、東大に合格するような学生も、実際は非認知能力(主体性・メタ認知・モチベーション・戦略性)が高いため、自分で目標を定めて自己分析をしながら自身をコントロールすることができ、結果として東大に合格できるレベルまで学習を続けることができる、ということです。

主体的に学ぶとは

昨今の義務教育の学習指導要領では「主体的で深い学び」というフレーズがどの科目にも登場します。お子様の通知表の評価項目も「主体的に学ぶことができる…〇△」というような評価になっていると思います。

なんとなくですが、これは今までの学習が教師から生徒への指導的・受動的であったことを反省しているように感じてしまうのですが、今の教育現場では「自分で考えて、自分の言葉で相手に伝えて、相手の意見を聞いて、自分の考えを深める」という学び方を重視しているようです。GIGAスクール構想として始まったタブレット端末などのICTを活用した授業スタイルも、一方的に知識を享受するのではなく、自分の考えを発信する学習として授業を変えていくことに主眼がおかれる必要があると思います。

では、主体的に学ぶとは、どういうことか。という点ですが、本書では、まず学習に取り組むためのマインドとして「やりたくないことに主体的に取り組むための目標を持つこと」が第一歩だと書いています。普通に考えると勉強は楽しいものではありませんが、学習した知識が実生活の中で役に立ったり、さらに興味や関心を深めてくれるものになれば、学習に面白みを感じられるようになり、自分からどんどん勉強できるようになれると筆者はいいます。そして自分の獲得した知識を使えるようになること、これが「主体的で深い学び」の求めるものではないかと思います。

マイナス思考とプラス思考

また、モチベーションの維持として、プラス思考とマイナス思考の両方が大切だとあります。楽観的にまだ大丈夫という気持ちと、もうダメかもしれないという気持ちが両方あるからこそ、私たちは期限内に仕事ができたり、失敗しないように前もって準備ができたり、初めてのことに挑戦できたりするようです。仕事でも、いけるかもしれない、だめかもしれない、というハラハラ感があるとき、充実してるなと感じますものね。自分の中で上手くバランスさせることが重要なのだと思います。

本書では、要所要所にドラゴン桜の漫画が引用されていて、できれば、これから受験する高校生に読んでほしい内容だな、と思いました。本書を読むと勉強するということの認識が変わるように思います。もしかしたら、自分も東大を受験できるのではないか、と思えてくる書籍でした。(時すでに遅すぎですが…)

 

2022年2月13日 読了

ケヴィン・ケリー『5000日後の世界 すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる』_感想

 

「ビジョナリー(予見者)」。本書の著者、ケヴィン・ケリーはしばしばこう称される。
テック文化を牽引する雑誌・米『WIRED』の創刊編集長を務めた著者は、GAFAなど巨大企業による「勝者総取り」現象など、テクノロジーによって起こる数多くの事象を予測し、的中させてきた。

テクノロジーがもたらす未来

雑誌WIREDを初めて読んだとき、尖がったコンテンツの面白さとセンスの良さにすっかり夢中になりました。シンギュラリティという言葉やディープラーニングという言葉も、まだ目新しかった時代。著者は、そのWIREDの創刊編集長ということで、現在の様々な現象を予見してきた方です。

本書は今から13年後のとても近い未来の予想図が描かれています。すべて、なるほど、確かにそうなっているかもしれない、と共感する内容です。

特に、気になったのは「食べ物」の未来。本書によると、近い未来にはお肉は人工的に培養されて、農村には無人ラクターが走り、AIが作物の成長を監視して適切な処置を行い、収穫はロボットが行うとなっています。すでに一部のテクノロジーは実用化されていて、野菜や果物も工場で作られたものをよく見かけるようになりました。

学び方を学ぶスキルが必要だ

本書に書かれていることは遠い未来の話ではなくで、ほんの十数年後のことです。何もしなくても、いつの間にか本書に書かれていることが当たり前になっているのかもしれませんが、やはり私たち自身もどんどん変わり続ける必要があるのだと感じました。

それが端的に現れてきているのが教育の分野だと思います。今の子どもたちは画面を観ればスワイプし、グーグルに話しかけて、学校ではタブレットミラーリングしてクラスのみんなに動画で発表する、という日常を送っていますので、基本的に私たちとは違う大人になるだろうと思います。まさにテクノロジーが人間の在り方を根底から変えてきているように感じます。

そうしたテクノロジーの進歩が加速し、不確実なことが多くなる世界においては、小学校から高校までの初等教育で「学び方を学ぶ」という汎用性の高いスキルを身に着けることが大切になると筆者は言っています。

テクノロジーの進歩に合わせて変化する社会の中で、何度も学びなおして、自分自身を最適化していくことが必要になるようです。だからこそ、学校は幅広い分野に興味を持てるジェネラリストを育てることが必要ですし、身に着けたものを手放して何度でも新しいことを受け入れるマインドを育てないといけないのだと思いました。

失敗したら戻ればいい

日本はとかく失敗を嫌う文化だと思いますが、これから先のテクノロジーが牽引する社会では、小さな失敗を繰り返してトライ&エラーを重ねて、今日よりも少しだけいい明日を作っていくスキルが重要です。変化する時代に、形を決めることそのものが、もはやナンセンスなんですね。試しながら修正しながら作っていけばいいんだと思います。

本書は、テクノロジーのもたらす未来を予測するということで、ビジネス向きの本かと思いましたが、ケヴィン・ケリーが言いたかったことは、少しづつ失敗しながらヒトは良くなっていくんだよ。ということだったように思います。

北京オリンピックの選手たちの勇姿を見ながら、しみじみと読了しました。

 

2022年2月12日 読了

 

ティエン・ツォ著『サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』_感想

 

モノが売れず、すべてがサービスとして提供される時代には、顧客との長期的なリレーションシップが成長の鍵となる。

新しいビジネスモデルとは

サブスクと聞くと、単純に定額課金ビジネスのことだと思われる方が多いと思いますが、本書は良い意味でもっと深い概念を説いた書籍です。

これまでのビジネスがモノを作って誰だかわからない顧客に広く販売することだったとすると、サブスクリプションは顧客を中心に据えた全方向サービスの提供を目指すモデルであり、顧客が成長すればするほど、供給するサービスの質も上がり、ビジネスも発展する。ということが書かれています。

考えてみると、私たちのデジタルライフは実に多くのサブスクに頼っていて、アップルのストレージはいつの間にか大容量プランで課金しているし、アマゾンプライムは便利すぎて解約するなんて考えられないし、とにかく少なくともデジタルの面においては、これまでのようにモノを購入して所有する必要性を感じないようになっています。

あらゆる業界が、モノを売るのではなくてサービスを提供するという見方に立てばサブスクへとモデルシフトできると著者は説いています。そして、モノを所有しない時代の唯一の消費がサービスであるということです。

永遠のベータ版

著者は、Gメールが世に送り出されたとき、もうほとんど機能としては完成していたにも関わらず、ずっとベータ版という表記が残されていたことを引き合いに出して、完成した商品を売るのではなく、顧客のニーズに合わせてサービス内容を変えていくことの重要性を繰り返し書いています。顧客起点で商品を変えていくことにより、顧客が上向きの時も下向きの時も、常に最適のサービスを提供することで、顧客との関係を続けていくことができるとと説いています。そして、そうした顧客中心のサービスは、現在のようなIoTが実現したからこそ可能になったというわけです。サービスを使えば使うほど、私たちの行動履歴はデータとしてサービス提供企業に蓄積されていくことになります。つまり、どんなビジネスも小さく始めてデータを集めていけば、まるで人工知能が学習をするように少しづつ成長していけるというモデルなのです。

これは、なかなか斬新な考え方だと思いました。永遠に完成しないことこそが完成形なのですね。

どんな分野にも適用できるのか

読み進めるうちに気になってくるのは、例えば行政や教育など単純にサービスを提供するだけではない分野にも、このモデルが使えるのだろうか、という点でした。

サービスと対価の流れが明確であれば、サービスの使い手の成長によってサービスの供給側も大きくなる、という理論は理にかなっていると思いますが、果たして、行政サービスと住民のような収益性のない関係においてもこのモデルは有効でしょうか?

この辺りは、これからじっくりと考えてみたいと思います。普段はあまり考えたことのなかったビジネスモデルというものを、もう少し見聞を広めて学んでみようかと思いました。

 

2022年2月8日 読了

デイヴィッド・イーグルマン『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』_感想

 

私たちの行動をコントロールしているのは「自分の意識」ではなかった! 例えば衝突の危険をはっきり認識する前に、足は車のブレーキを踏んでいる。脳はたいてい自動操縦で動いており、意識は遠いはずれから脳の活動を傍観しているにすぎないのだ。だが、自覚的に制御することができないのなら、人間の行動の責任はどこにあるのか? 意識と脳の驚くべき働きを明かす最新脳科学読本。『意識は傍観者である』改題文庫化。

意識は氷山の一角

脳の働きについて知りたいと思い気軽に読み始めた本書ですが、なかなか読み応えのあるハード系の脳科学本でした。ですが、専門用語は少なく、図解や事例がたくさん挙げられているので素人でも無理なく理解できます。

さて、本書の中で大きな衝撃を受けるのは、私たちの意識はほとんど脳内の活動を認知していない、ということです。私たちの多くの活動の裏側には、とても複雑なニューロンの働きがあるわけですが、意識はそれらをほぼ感知していません。AIがチェスで人間を破ったことは人工知能の発展として有名な話です。AIのワトソンはチェスの一手を計算するために、かなり大量のエネルギーが必要だったそうですが、対する人間の脳はほとんどエネルギーを消費せずに複雑な計算を無意識にこなしてしまいました。脳は一度習得した活動は無意識に行えるように設計されているようです。意識が必要とされるのは、何か問題が起きた時、いつもとちがう対処が必要なときのみで、私たちは実に多くのことを無意識にこなしており、意識は私たちの氷山の一角に過ぎないのです。

では、考えている私とは

ここから話題は少し哲学的でダイナミックになっていくのですが、では、「意識のある私」が私のほんの一部なのだとしたら、何かを選ぶ私、判断する私とは、本当に私なのか?私という意識が関与する行動なのか、思考なのか?という疑いが出てきます。

筆者は様々な犯罪者が精神疾患や脳腫瘍のために犯罪に及ぶ例を挙げています。裁判で裁かれるのは、「行動に責任を負うべきか」ということですが、精神疾患の結果として犯罪を犯すことは、本人に「考える」余地がなく不可抗力だったといえます。つまり、人の思考や行動は意識の知らない脳の活動で決まるという理論を踏まえるならば、犯罪行為は行為者にはどうすることもできなかったという主張が説得力を持ってきます。さらに、現在の法制度において、犯罪者の有責性を問うことは無意味だとして、犯罪者の更生に重点を置く刑罰制度を提唱します。この辺りはかなり大胆な論説ですが、犯罪者のほとんどが精神鑑定によって減刑されている現実を見ますと、あながち間違いではないように思います。

ブレイン2.0の時代へ

本書の冒頭で、筆者は脳の可逆性と問題が解決しても繰り返し別の解決ルートを探る性質に触れて、将来的には赤外線や紫外線の映像、天候データや市場データなど、新しいデータストリームを直接脳に差し込めるかもしれない、と言います。

犯罪者の更生に着目するという点で、ロボトミーという前頭葉の切断手術によって人格を変える方法が紹介されていますが(筆者はロボトミーでは不十分という立場です)、もし、私たちの意思が「脳」の在り方に左右されるものだとしたら、物理的に脳を変化をさせたり、新しい形式のデータを注入できるようになることによって、私たちそのものを変えることが可能なのかもしれません。人間の倫理感だとか、他者を思う心だとか、誰かを愛する気持ちだとか、そういうものの根底が何によるのか…ますます分からなくなりますね。

そんなわけで、「脳」や「意識」についてとても深く考えさせられた一冊でした。久しぶりに意識を総動員して読み上げたのでした。

 

2022年1月30日 読了

 

岡嶋 裕史『メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~』_感想

 

フェイスブック社が社名を「Meta」に変更すると発表した。「Meta」とは「Metaverse=メタバース」の「Meta」である。では「メタバース」とは何か? ITに関するわかりやすい説明に定評のある岡嶋裕史氏(中央大学教授)が、その基礎知識から未来の可能性までを解説。「メタバース」は第四次産業革命に匹敵する変革を我々の日常にもたらすのか? はたまた、ただのバズワードで終わるのか?

世界を圧巻するGAFAMの次の商機が仮想空間

生活に未着している企業と言えば、もちろん地元の会社もたくさんありますが、本書に登場する、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフトはもはや不動の地位だといえます。

本書はこれらの企業が、SNSの次にやってくるとされるメタバース(仮想空間なのか拡張ARなのかミラーワールドなのかで若干違いがありますが)においてどのように主導権を握ろうとしているのか、その方向性が分かりやすく書かれています。

私たちの生活にインターネットやSNSは欠かせないものですが、もし、ゲームのフォートナイトやあつ森の中で、働いたり学んだりすることが可能になれば、リアルよりもずっと過ごしやすく、自分の心地よいものだけに囲まれた世界で生きることが可能になるかもしれません。メタバースはその可能性を提示する「もう一つの世界」になりうるものだと筆者は言います。

誰もが自分の正義を持つ世界

現在社会は個々の多様性が何よりも重視され、「人と違ってみんないい」ことが強く推奨されている社会です。しかし、「自由」と「平等」は、実は相性が悪いのだと筆者は言います。個々が自由にふるまえば必ず個体差が生じて平等にはなりませんし、全体を平等にしようと思えば自由が制限されてしまいます。現在は、誰もが自分自身の規範を作り、それをもとに自分だけの正義を持っている時代ですが、対立する関係にあっては、私の正義はあなたの不正義になりかねないと筆者は警告しています。そこで相手に折れることは、自分の正義を失うこと、つまり自分のアイデンティティが迷子になることと同じなので、私たちは戦いつづけるしか道はないのです。

そんな時に、自分と同じような価値観や意見を持つ人だけで構成される世界があったら、どんなに魅力的でしょうか。もうその世界に沈み込んで、出たくなくなるのではないでしょうか。そこが安全で快適で仕事もできて自分自身が認められる世界であったなら、もうリアルは必要ありませんね。

リアルと仮想のハイブリットか、まったく別の世界か

フェイスブックは社名をメタに変更して、現実世界とは異なる仮想空間を構築することで商機を生み出そうとしています。これに対して、アップルやグーグルは、仮想と現実とのハイブリットな社会で存在感を示そうとしているようです。マイクロソフトに至っては、ハイブリットな社会の企業活動への進展において、アマゾンは仮想だろうがリアルだろうが、必要とされる商品を手堅く売る、というふうに、それぞれ思惑は違っているようですが、いずれにしても、リアルとは違う世界が今後ますます重要になっていく点はどの企業も同じ認識のようですね。

子どもたちに聞いてみますと、例えば、ゲームの世界で学校に行って卒業して、その中で仕事も見つけるのであれば、それで十分だと言います。特に、急速にコロナとGIGAが合わせ技で子どもたちの環境を大きく変化させている中で、仮想現実に全く違和感を感じないようです。

そんなに遠くない未来に、グーグルグラスをつけて仕事をしたり、メタバースで副業をしたりしている社会が現実になっているように思います。それは、そんなに違和感のある突飛な取り組みではなくて、なるべくしてなるというか、実は誰もが求めている社会なのかもしれないと思います。

今のリアルが少し息苦しく思うのは、自由が重くなりすぎていて、夢が溢れすぎていて、人と違うことが求められすぎているからかもしれません。何者でもないただの自分が、大きな声を挙げなくても存在できる世界に憧れているのかもしれませんね。

昨今のトレンドワードである「メタバース」について、大変勉強になる一冊でした。

 

2022年1月24日 読了