社会にうずまく悪や欲望、苦痛や悩みなどがすべえてとりはらわれた理想社会――喜怒哀楽の感情が抑制され、職業が与えられ、長老会で管理されている規律正しい社会――〈記憶を受けつぐ者〉に選ばれた少年ジョーナスが暮らすコミュニティーは、ユートピアのはずだった。けれども、理想の裏に隠された無味乾燥な社会の落とし穴に〈記憶を伝える者〉とジョーナスが気づいたとき、そこに暮らす人々が失っている人間の尊厳にまつわる記憶の再生を計ろうとする。2度のニューベリー賞受賞に輝くロイス・ローリーが贈る、衝撃的近未来ファンタジー。
表紙袖裏より引用
人生は選択の連続でできている
大人になってから児童書を読むと新しい発見があるものです。
このお話は、遠い未来なのか別の惑星なのかわかりませんが、とあるコミュニティを舞台にしたディストピア小説。
そこでは誰もが礼儀正しく、決まった生活をして、生まれる子どもの数も、子どもが育つ家族も、将来の職業もすべて最適になるよう細心の配慮がなされています。
誰も飢えることもなく、仕事や家族はそれぞれの個性にマッチしていて、不安や痛みを感じることなく、大人は子育てを終えたら、大人だけのユニット→老いの家→安らかな最期を迎えます。
痛みはなく、みんなが幸せで、持続可能な社会システム。
だけど、「記憶を受け継ぐもの」に選ばれた主人公は、過去の記憶を知るごとに、今の生活は無意味であることに気づいていく。
間違った選択をするかもしれない。それで飢えたり傷ついたり時には死んでしまったりするかもしれない。誰かを傷つけるかもしれない。
だけど選べないことのほうが不幸なんだ。と
選ぶことは楽しいけど恐しい
物語は主人公がある決断をすることで急展開します。
最後の結末に向かって、どんどん進んでいく主人公。その道は正しい選択だったのか…?
確かに私たちの人生は選ぶことの連続で、それで失敗したり落ち込んだり、嬉しくなったり悲しくなったり、とても平坦には進みません。
でも、もし何でも与えられる人生だとしたら…
自分のアイデンティティはどこに行くのでしょう?
失敗しても自分で考えたり感じたりしながら道を選ぶことに「喜び」や「誇り」や「責任」を感じて生を実感するのが私たちなんだと思いました。
一つを選ぶことは、もう一つを捨てること。生きることは削ること。
それを気づかせてくれる物語です。
それでも選んで失敗して生きていこう
私たちは自分が選んだものでできています。
もしかしたら、自分で選んでいるように感じているだけで、周りや社会に影響されているだけかもしれませんが、それでも私は何かを選ぶごとに自分らしさを感じます。
正解かどうかは、あまり重要ではないのかも。
それなら、たくさん捨ててたくさん拾おう。と思いました。
子ども達にも読んでみてほしい一冊ですね。
2022年1月6日 読了