ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

佐々木正人『知性はどこに生まれるか ダーウィンとアフォーダンス』_感想

 

アフォーダンスとは

アフォーダンスは英語のアフォード(与える、提供する)から生まれた造語で、「環境が生物に提供するもの、用意したり備えたりするもの」であり生物の行為の資源になること、と説明されています。本書を読むまでは何のことなのか理解できなかったのですが、読後はそういう見方があるのか、と目からウロコが落ちた感じになりました。

タイトルの「知性はどこに生まれるか」の答えは、脳の中や心の中ではなくて、生物と環境の相互作用の連続の中に生まれるもの。かと思います。それを観察の中から最初に発見した人がダーウィンでした。

ダーウィンは、種の起源や進化論で知られている生物学者ですが、本書では、ダーウィンは心理学者でもあったという側面を紹介しています。生き物が何故、その行為をするのか、なぜ環境によって行為が変わるのか、これまでは遺伝であるとか本能であるとか考えていましたが、もっと根源的なところにある生物をとりまく環境が行為のトリガーになっているということに気づいた人がダーウィンでした。本書には、これまで知らなかったダーウィンの凄さが色々と書かれています。

ぼくらが生き続ける理由はぼくらの中にはない

例えば、私たちが死ぬときを考えてみると、交通事故にあうとか、高いところから転落するとか、病気になるとか、寿命が尽きるとか、死因は色々とありますが、その原因は外的なものです。自殺をしようと思う意思は内的なものかもしれませんが、生物として死ぬためには、物理的な外的な影響(溺れるとか、出血するとか、息ができないとか)がないと死ねません。同じことが生きることにも言えて、私たちが生物として生き続ける理由は私たちの中ではなくて、外側にあるのです。

本書では、ダーウィンの実験でミミズの観察が紹介されています。ミミズは脳を持ちませんが、皮膚が感覚器官として外の様々な刺激を感じ取っています。ミミズは乾燥に弱いので土の中に穴を掘って暮らしていますが、乾燥しないために穴の入り口をふさがないといけません。ダーウィンはミミズが葉っぱのどの部分を使って穴をふさいでいるかを観察しました。すると不思議なことに、多くのミミズがもっとも効率良く穴をふさぐことのできる部分を使っていることが分かりました。それは反射でもなく記憶でもなく試行錯誤でもない、環境の何かがミミズの行動を決めている、ということに気づいたダーウィンは、これが知能ではないかと考えたのでした。

本書では、他にも様々な現象や感覚について、周りの環境が及ぼす行為への影響を紹介しています。あらゆる行為は、それが植物であっても動物であってもアフォーダンスに動機づけられて始まります。生きている限りはずっとに環境に刺激を受け続けて、行為をしているわけで、そこには正しさも誤りもなくただ結果があり、次の刺激があります。著者は、行為の正誤が分かるのは人間が作り出した人工的なカテゴリーの中だけだといいます。

自己はどこにでもある 

では、私たちが知性と呼んでいるものは、行為の連続の中のどこで生まれるのでしょうか。私たちが何かをするときには、それをする「意図」があります。著者は、環境に刺激されて行う行為の瞬間瞬間に「知覚」が生まれて、それがまた環境に刺激されて次の行為が始まるといいます。この連続の瞬間瞬間に意図が生まれているのだと。ですから、私たちの「考え」というものは行為の中のどこにでもあって、もっと大きく言うと環境の中のどこにでもあると著者はいいます。

ちょっと分かったような分からないような感じですが、なんとなく分かります。自分の中にあるのではなくて、自分の外にあるものによって引き出されているという意味かと思います。

ということは、日々の活動の中で自己が認識されて環境との関わりの中に知性が瞬間瞬間に芽生えているということでしょうか。赤ちゃんの様子を見ると、この見方も合っているように思います。赤ちゃんの時期は発見による成長の連続ですよね。

実は、私たち生物は死ぬ時まで発見による成長をしているのかもしれませんね。そんなことを分かったような分からないような感じで考えてしまう本でした。読み物としてもダーウィンのことやアフォーダンスを提唱したギブソンのことが良く理解できて面白かったです。まだまだ知らない新しい世界があるなあ、と感じました。

 

2022年7月29日 読了