ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

向井 和美『読書会という幸福』_感想

 

未知の世界の「読書会」

著者は翻訳家であり、とある学校の図書館司書をされている根っからの本好きの女性です。文章の書きぶりから受ける印象は、サバサバとしたオバさま、という感じでしょうか。

本書の中でも書かれていますが、幼少期に育った家庭で両親の仲が悪く、子どもだった著者は現実逃避として読書にのめりこんでいったとのこと。現実逃避のための読書という感覚は、とてもよくわかります。昔、ネバーエンディングストーリーという映画があって、主人公がいじめっ子から逃げて、学校の物置のようなところで一心に読書にふけるうちに、本の世界に入り込んでしまうというお話がありましたが(原作はミヒャエル・エンデの名作ですね)、子どもの時に誰しもがそういう現実逃避の読書をしたことがあるのではないかと思います。残念ながら、大人になった今は、そういう読み方ができなくなってしまったように思います。

本書では、著者が30年以上にわたって続けてきた読書会でどんな本を読んできたのか、本のあらすじや感想と共に読書会の様子が紹介されています。読書会という未知の世界を覗かせていただいている気分で興味津々に読み進めることができました。

読書会は色々なスタイルがあるようですが、著者の会は、課題図書を決めて、それを読んで1か月に1回集まって感想を言い合うというもの。本の感想を他の人と共有することで、そんな見方もあったのか、とか、ほかの人はここをこういう風に読むのか、と新しい気づきが得られて、本を何倍も楽しめるとのことです。読書会という、未知の世界に断然興味が湧いてきます。

文学を読む楽しみ

著者の読書会で扱うのは、外国の文学作品です。一人ではなかなか読了できないような骨のある作品こそ、読書会で読む意義があると著者はいいます。一人では挫折してしまう大作も、一緒に読む人がいると思うと最後まで読めるようです。確かに、文学作品というのは、他の本とは違って、消化するのに時間がかかりますよね。いつか読みたいと思いつつ、いつまでの読めないのが文学作品のような気もします。

本書の中でも読書会で取り上げた色々な文学作品が紹介されていますが、巻末に読書会の課題本リストが紹介されており、自分も読んでみたい、と思う作品ばかりです。そして、自分一人ではおそらく読み終えられないだろうな、と思う作品ぞろいなのです。

少しだけリストから紹介しますと…

 チボー家の人々

 ジャン・クリストフ

 失われた時を求めて

 カラマーゾフの兄弟

 …

どれも聞いたことありますし、「失われた時を求めて」といえば紅茶にマドレーヌ浸してたべるやつ、という、もはや憧れの未知の世界です。

読書会に参加してみたくなる

そんなわけで、大いに触発されましたので、久しぶりに文学作品の読書に挑戦しようかな、と思っています。ですが、おそらく読了できずに終わると思いますので、どこかに参加できそうな読書会があれば、一度行ってみたいです。

読書は自分一人でできる楽しみですし、読むことで自分の内面を深く考えるきっかけにもなるため、とても個人的なことだと思っていましたが、こうして本を通じて人とつながる世界もあるのだな、と思いました。同じ本を読んで、同じように感動した人となら、なんだか色々なことが話せるように思います。そういう深い会話をする機会というのは、大人になるとほとんどありませんよね。学生のころに友人と語り合った時間がいかに大切なものだったのか、今になって気づく感じです。

著者の言う、読書会の幸福も、そういう部分にあるのでしょう。なんとも、贅沢な幸福ですよね。私も、そんな風に人とつながれる時間を求めて、さて、まずは図書館にでも行きますか。

 

2022年8月25日 読了