ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

真田正明『朝日新聞記者の書く力 始め方、終わり方』_感想

 

文章を書くのが嫌になったときに

仕事で書く文章は、ほとんどが事務的なものなので、特に構成に悩むとか表現をどうしようとか考えることがないのですが、時々、一般の方に、難しいことを分かりやすく、読みやすく伝えないといけない、かつ、文章はシンプルにダラダラと書かずにポイント絞って、要点を見やすくして、みたいなオーダーを受けることがあり、その都度、まいったなーと思って文章を書くのが嫌になっていました。

本来、文章を書くことは楽しいことですよね。自分の頭の中にある考えやストーリーを、文字にしていくうちに自然と頭の中が整理されて、相手に伝えたかったことも、文字にしてみてようやく輪郭がはっきりしてくるというか、クリアになっていくような爽快感があります。

でも、仕事で書く、事務的ではない文章というのは、なんだかとても厄介で、いつも嫌になってしまうのです。本書を読んで、それは自分が書きたいと思うことを書いていないからなのだ、と気づきました。

当たり前のことですね。書きたいと思っていないことを上手に書こうと思っても無理な話です。

読み手を惹きつける文章とは

本書は新聞記者として長年記事を書いてこられたノウハウが色々と紹介されています。

前半は新聞記事のノウハウ。いつ、どこで、誰が、何をした、ということを正確に伝える文章には書き手の気持ちや心情は必要ありません。私たちが日ごろ仕事で多く書いている事務的な文章も同様です。

一方で、新聞でもコラム欄や社説、朝日新聞なら天声人語などは、通常の記事とは違います。読み手に読んでもらえる文章を書かなくてはいけないし、そのためには書き手の書きたいこと、伝えたいことがないと書けません。

後半は、小説や詩が多く紹介されていて、夏目漱石太宰治三島由紀夫村上春樹などの文章のどこが魅力的なのか、読者の心を掴むのか、というのが良くわかります。

冒頭はシンプルに。季節感を出して。語感を磨いて…などなど、読んでいると、それらの作品が読みたくなってしまいます。なるほど、小説や文学作品の魅力は、もちろんストーリーの面白さや登場人物の描写の深さみたいなものもありますが、何よりも「言葉自体を味わう喜び」みたいなものが大きかったのだと気づきました。

言葉の味わいを大切にしたい

教科書に載っていた小説で、高校生のころ好きだったのが中島敦山月記です。ストーリーも面白いのですが、なによりも文体が好きでした。シンプルで力強い文体は、今も心地よく感じます。人それぞれ、感性の合う文体、言葉というのがあるような気がします。詩を読むと、特にそれを感じますね。何が良いのか上手く説明できないけど、この人の言葉が好き。というのがあると思います。

大人になって、実用的な本をたくさん読むようにはなりましたが、言葉を味わって読むことは、ほとんどなくなりました。「言葉」=「情報」としてしか、捉えていなかったと思います。今は情報と時間が大切な社会ですから、少しでも効率良く、言葉は少なく情報量は多くして、文章ではなくて写真や動画で伝えることが主流になっていますが、言葉の味わいというものも忘れてはいけないと思いました。

子どもには本をたくさん読んでほしいと思います。知識を増やすためではなくて、言葉の中にある、人々が蓄積して伝えてきた感性みたいなものを感じとる力をつけてほしいと思います。

そして、自分自身も、日ごろ簡素な文章しか書かないし読まないので感性が随分と鈍っておりますが、言葉を味わうという気持ちを忘れないようにしたいと思います。

でも、仕事で書く文章は、淡々と事実を分かりやすく伝えるということに気持ちを注いで、考えすぎずに書くことにします。書くのが嫌になったときは、とりあえず没個性で淡々と。

 

2022年10月30日 読了