ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

中室牧子『「学力」の経済学』_感想

 

データで教育を分析する難しさ

先日、幸いなことに著者の講演を聞く機会がありました。後になってから、本書を読んで、より理解が深まったと思います。

一貫して言えることは、教育は誰もが受けてきたものだからこそ、その良し悪しを語るときには主観的になってしまいがちだということです。もう少し突っ込んで考えると、教育の成果というものが目に見えて測定しにくいので、どうしても客観的なデータよりも主観的な自分の経験や人から聞いた逸話などを、一般化して語ってしまいがちだということです。

色々な「教育」があるけれども、どこにも「正解」はないという、まさに皆にとっての正解ではなく、あなたにとっての最適解を見つけるということが個別最適な学びなのだろうとも思います。

本書では、主観ではなく客観的なデータに基づく考察が色々と紹介されています。これが金融や経済、産業の書籍だったら特段に珍しい事でもないと思うのですが、やはり、学び方の差や、学びの成果をデータで見て考えるということは、教育の世界では浸透していないようです。

著者は本書の中で、日本で教育に関するデータを取ることの難しさや、実験的にやってみて上手くいかなかったら軌道修正するという、「試行錯誤」的なアプローチが取りにくいことを指摘しています。確かに、教育の方法を自分の子どもを実験台にして試されると思うと、ちょっと容認できないかもしれませんね。でも、そもそも人の成長そのものがトライ&エラーのうえで出来上がっていくものですし、自分にとっての最適解を見つけることが「学び」だとしたら、みんなが同じ方法で教育を受けなくても良いように思います。

まずは勉強の仕方を勉強しよう

本書では、例えば、テストで良い点をとったらご褒美をあげるというやり方は良いのか?という疑問への答えが書かれています。

結論から言うと、ご褒美をあげる対象がインプットに対してなのか、アウトプットに対してなのかでご褒美の効果が変わってくるというもの。アウトプット、つまりテストで良い点が取れたらゲームを買ってあげる、というような提案をした子どもの学力テストの成績はほとんど伸びなかった、という結果があるそうです。一方で、インプット、例えば読書をするとか、宿題をするということに対してご褒美をあげると、結果的に学力テストの成績が上がったとのこと。これは、アウトプットでは、それを達成するために具体的に何をするべきか方法が示されていないのに結果が求められるのに対して、インプットは何をすれば良いのかが明確で、結果ではなく行った行為にに対して評価が得られるため、子ども達のやる気を刺激して、良い結果につながるようです。

アウトプットに対して外的インセンティブを与える場合は、その方法も一緒に示すべきなのですね。ますは勉強のやり方を学ぶことが大切です。

人材育成のブラックボックス、教育のタブーをなくそう

本書を通して著者が言いたいことは、もっとデータを活用して客観的な判断に基づいた教育政策を進めよう、ということだと思います。他の分野に比べて、「教育」というカテゴリーが不可侵化されていると感じます。例えば、各校の学力テストの結果を公表することは、とてもナイーブな問題で、「同じ学習要領に基づいて教えているのに結果に差がある」ということを公にすることはタブー視されていると思います。

でも、現実社会では、同じ投資をしてもリターンは同じではないし、一人一人のポテンシャルも違うわけですから、差があって当たり前なのです。しかし、戦後の公教育の方向性をそのまま引き継いでいるからなのか、同じことを全国一律で教えて、結果はどの学校も同じであるべきだ、という感覚が根強く残っていると思います。実際には数値化されていなくても、差異があることを誰もが知っています。

特に、今のような変化の激しい時代において、正しいことが正しいままでいられる時間がどんどん短くなっていると思います。子ども達も単に知識を学ぶのではなくて、知識をもとに自分なりの解を導き出したり、人と協調して物事を考えたり生み出したりする力が求められています。義務教育はそうした考え方や態度を培うための礎としての役割を担っていくべきです。まだ、あまり目に見えてはいませんが、少しづつ「学び方」というものが変わってきているのは事実です。

子ども達の未来は、ますます大変だろうな、と思いつつ、私たちも学び続けなくてはいけないな、と感じました。

 

2022年12月10日 読了