ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

新田 龍『問題社員の正しい辞めさせ方』_感想

 

雇うのは簡単だけど…

 「辞めさせる」というと少し酷いことをするようなイメージがわきますが、実際のところ、どこの企業にも「使えない人」というのは存在していて、彼らが周りに及ぼす影響は看過できないものがあります。危険分子を放置しておくと職場全体の士気が下がってしまうので、職員の処遇を整えて誰もが働きやすい環境を作ることは使用者側の責務です。が、辞めてほしい人に「辞めてよね」ということは簡単ではありません。本書は合法的な退職までの手順と注意事項がまとめられています。人事担当の方なら必ず頭を悩ます「使えない上に悪影響をもたらす人」をどうするか問題が予防策も含めて解決するのではないかと思います。

 日本の労働者は法律で手厚く守られている存在。どちらかというと法律は労働者の権利を擁護する立場で作られているので、使用者側が社員を辞めさせるのは簡単ではありません。また、昨今は色々な情報がネットで簡単に得られるため、例えば、辞めさせられそうなときのゴネ方が出ていたり、法的に対抗して慰謝料を請求しよう、みたいなサイトがあったりもします。もちろん、ブラック企業で働いていて不当に解雇される危険のある人にとっては有益な情報ではありますが、真面目に経営している会社にとっては脅威そのものです。雇うのは簡単でも辞めさせることは難しいのです。

まずは就業規則を整える

 そこで、筆者が勧めるのは、まずは就業規則の作りこみです。常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。厚労省のホームページには就労規則のひな型も掲載されているので、基本的な内容であれば誰でも簡単に作れるようです。筆者は、就業規則にできるだけ具体的な記載をしておくことを勧めています。例えば、遅刻を繰り返す社員に「勤務怠惰」として注意を行う場合でも、就業規則で具体的な回数や程度を定めておけば、事務的に処理をすることが可能となります。例えば遅刻10回で書面注意、20回で減給、30回で出勤停止など、段階的に処分を重ねることが出来れば、その履歴を持って社員を辞めさせる正当な理由付けが可能となります。

 次に重要なのは、口頭ではなく書面で残すこと。上司からの部下に注意する場合、日常の些細な注意は口頭で済ましてしまいますが、度重なるミスや素行の悪さには、市怒りと書面で注意をして、相手にも注意書を受け取ったことの確認を求めるように、とアドバイスがされています。こうした小さな指導の積み重ねが、裁判などでは重要な証拠として、会社側が不当に解雇するものではないことを証明することができるのです。こうしたことは、一度社内で制度化してしまえば難しいことではないように思います。社員も何をしたら罰せられるのか、どういう態度が望ましいのか、ということが明確にわかるので不要なトラブルを回避することにもつながると思います。

社員をしっかり支援しよう

 そして、筆者のお勧めする究極の退職勧奨方法は、ずばり「太陽方式」というもの。社員のスキルアップや能力開発を会社が全力でバックアップして、とことん応援する、チャンスを与える、などの教育を行うことが大切だといいます。それで社員が育ち、仕事がこなせるようになれば、もう辞めさせる理由はありませんし、逆に会社の熱すぎる教育に嫌気がさす人は、そもそも真面目に働く意思が弱いので、自然と自己都合退職につなっがっていくというものです。

 これも、いざ実行するとなると難しいように思いますが、自社に応じた研修体形などを一度作ってしまえば、あとは社員の状態に応じて淡々と教育機会を与えていくだけで実現可能となります。そして、それは会社として社員の育成に力を入れているということであり、決してマイナスには評価されないものなので、もし不当解雇で訴えられたとしても十分に勝てる要素となるのです。

 今回は、社員をいかに円満に辞めさせるか、という人事担当者でなければ手に取らないような書籍を読んでみましたが、組織経営のノウハウが至るところにちりばめられており、人事担当でなくとも部下を持つ人にとっては示唆に富む内容だったと思います。仕事をするうえで、最も厄介なのは人間関係ですから、知っておいて損はないな、と思いました。

 

2023年12月15日 読了