ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

外山滋比古『知的生活習慣』_感想

 

忘れて頭を整理する

 著者は「思考の整理学」で有名な外山氏。90歳を超えてなお知的生産性の高い生活を送られている著者の日常のちょっとした考え方が綴られているエッセイ的な読み物です。気軽に読めるので、隙間時間に少し頭をリラックスさせたいときにお勧めです。

 本書では、外山氏の知的生活習慣を「頭」「体」「心」の3面から振り返っています。例えば、「頭」であれば、「日記をつける」とか「計画を立てる」とか「図書館を利用する」とか、誰もが実践できそうな日常のヒントが書かれています。著者の年齢から考えても若い方向けのアドバイスではないと思いますが、歳をとってからも色々な方法で自分自身に刺激を与えることができるのだと勇気づけられます。

 「頭」の章で気になったのは「忘れて頭を整理する」という方法。ベストセラーとなった「思考の整理学」でも書かれていたように思いますが、クリエイティブな思考をするためには、いかにして物事を忘れて頭の中をすっきりさせるかが重要だと著者は言います。そのために、思いついたことはすかさずメモをとって、頭の中にはいつまでも残さない、睡眠は記憶を整理する作用があるのでしっかり寝る、特に夢を見るレム睡眠が大切、などが書かれてます、いつもでも情報が頭に残っていると脳の処理速度が落ちてしまうのは、人間もPCも同じですね。しっかりと寝た翌日は頭と心がスッキリとして、昨日までダメだと思っていとこともなんだか出来そうな気がしてくるのも、記憶が整理され不要な情報が消された効果のようです。

手紙を書く 万年筆にこだわる

 後半の「心」の章では、「生活を大事にする」ということがまずは重要だと書かれています。学校教育は生活を切り離して、知識ばかりを教える場所になっていることを著者は嘆いておられます。著者も教師として子ども達に教える立場でしたが、学校教育の虚しさを感じて教師を辞めてしまわれたようです。知識は生活と結びついてこそ生きてくるもので、知的生活を送りたいのであれば、まずは生活を大切にしないといけない、とのことです。これから先を考えてみても、知識の量だけでいうと人間はAIには及ばないでしょうし、知識を得ることは既に価値を失い始めています。学校教育も知識を得ることから使うことに、生活の中で活かすことにシフトしてきているのではないでしょうか。

 心の豊かさを保つ方法として著者が書いているのは、俳句を作ること、手紙を書くことなど、誰かに向けた文章や表現をすることです。日記は他人に見せるものではありませんが、俳句や手紙は自分以外の誰かが読んだり感じたりすることを前提に書きます。この他者とコミュニケーションする心が大切だということのようです。

 そして、今は文字を書く機会が少なくなりましたが、著者は文具、特に万年筆を愛用しているということで、ここは少しモノへのこだわりと愛着が感じられて、大いに共感できる部分でもありました。例えば、誰かにお礼の葉書一枚書くにしても、葉書のデザインを季節に合わせて選んで、万年筆で書いたら、それだけで生活が豊かになったように感じるかもしれません。もちろんメールやラインをおくれば、秒で終わる作業ではありますが、それを作業とするのか、生活の一部とするのかで、生き方の豊かさが大きく変わるのだろうなと思いました。

 いつでも実践できることではありませんが、たまには手紙を書いてみるなど、生活の豊かさを感じる時間を大切にしたいと思いました。

 

2024年7月10日 読了