ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

山口真一『炎上とクチコミの経済学』_感想

 

情報拡散の表と裏

 一億総メディア時代と呼ばれる現代では、誰もが情報の発信源になれると同時に、誰もが簡単に誰かの言葉に反応して傷ついたり励まされたりしています。本書はネット上で「炎上」が起こるメカニズムを計量経済学の手法で数値的に明らかにし、その予防法や対処法が詳しく解説されています。2018年の書籍なので、少し内容が古くなっているところもあるかと思いますが、著者いわくデータ分析をもとにした初の炎上マニュアル本ということで、会社で広報を担当されている「中の人」には必読の書だと思います。広報を担当していなくとも、何かトラブルが起きた時の対処法として、ネット上の炎上案件以外でも色々と役に立つ考え方が掲載されていますので、営業職や窓口業務の方にも参考になると思います。

 さて、「炎上」は、バイト店員がコンビニのアイスケースに入って撮った写真をSNSに掲載したところ、拡散されアンチコメントがついて、ついにはコンビニが閉店まで追い込まれるといったような、ネット上の過剰な反応が実社会にも影響することをいいます。一方で「クチコミ」は商品を購入したりサービスを利用した消費者がネットの通販サイトなどに良かった点や悪かった点を書いて商品や店を評価することです。そもそも、この2つは全く違う行為ではありますが、その実、よく似たメカニズムがあると著者は言います。炎上の元となる投稿をする人は、特に深い考えはなく投稿をしてしまうわけですが、それを拡散したりアンチコメントを書いてしまう人の心理は、クチコミを書く人の心理ととても似ているようです。双方とも、間違ったことはいけないという「正義感」や人の役に立ちたいという「親切心」から書いているケースが多いとのことで、誰もが情報を発信できる立場にある現代特有の行動様式だとも思えます。

大炎上を引き起こすのはワイドショー

 ネットの投稿はどのように拡散されて炎上していくのか、興味深く分析されています。実はSNSへの投稿自体は最初はそれほど多くの人に拡散されるわけではないのですが、それがネットの「まとめ記事」に取り上げられ、次に噂の話題としてテレビのワイドショーなどで取り上げられることによって、ネットとは無関係の人にも知れ渡り、あたかも重大ニュースや社会問題のように捉えられてしまう、これが会社の株が下落するような大炎上の起こるメカニズムになっているようです。

 情報を発信する側の予防策としては、誤った情報を発信しない、不確かな情報を発信しない、情報を捏造しない、必ず複数人で投稿内容をチェックする、センシティブな話題には最新の注意を払う、発信のタイミングを考える、などが挙げられています。特に、正しい情報を発信していても、それを発するタイミングによっては内容と無関係にバッシングを受けてしまうケースもあり、例えば災害時の楽天的な発信などには注意が必要です。広報担当の中の人も、なかなかに大変ですが、「空気を読む」ということが何よりも重視される時代になってしまったようですね。そして、当然のことではありますが、間違った情報を発信しないなど、発信する側の責任をしっかりと認識することが大変重要だと思いました。これは企業も個人も、責任の重さは同じですよね。

炎上してしまったら

 予防をしていても炎上してしまったら、まずは事実関係を冷静に見極めることが大切なようです。炎上や拡散の規模はどのくらいの範囲か、批判やコメントの内容は妥当なものか、こちらを擁護する意見もあるのか、炎上参加者のアカウントは攻撃目的のものではないかなど、自分たちが発信した情報のどこに反応されて、どのような属性の人が批判をしているかを分析することで、自分たちの情報に非があるのか、それとも反応者の側が偏っているのかを把握することが出来ます。そのうえで、自分たちの発信に非があるのであれば直ぐに撤回し謝罪するなどの対応をとる必要がありますが、逆に非がないのであれば発言を撤回せずに主張を貫くという態度も大切だと言います。

 これは例えばクレーマーへの対応でも同じことが言えると思います。非がないのに、その場を早く収集したくて適当に謝罪したりすると、言葉の挙げ足を取られてかえって事態が悪化することになりかねません。揉めたときは、まずは冷静に状況確認が大切です。

 他にも、隠蔽しない、言い訳をしない、など人間関係のトリセツと炎上のトリセツがよく似ているなと感じました。これは、ある意味では、情報発信というのは、不特定多数の誰かに伝えているのではなくて、自分の家族や親友に伝えていると思って愛情ある発言を心がけよ、ということなのかもしれません。言葉を大切に、情報は愛情を持って扱いたいと思いました。

 

2023年11月23日 読了