いるいる、こんな人
春は異動のシーズンです。職場内でも、なんとなくソワソワした雰囲気が漂って、今度の新人さんはどんな人かなと期待と好奇心が膨らみます。
本書の前半は、とにかく、困った人が特徴ごとに紹介されていて、思わずクスっと笑ってしまいます。ロッカールームで噂話をしているときの気分に似てるのですが、「あーー、いるよね、そういう困った人!」と共感できることばかり。
人間関係に疲れやすい人、反論されるとムキになる人、失敗すると立ち直れない人、落ち込むとすぐ休む人、クレームがきたら逃げ出す人、小さなことに大騒ぎする人、やたらと文句の多い人、失点を恐れて保身に走る人、被害者意識が強すぎる人、プライドを守りすぎな人。こういう人、たくさんいますよね。
でも、実際に自分の同僚や部下が、こういう人だったら、笑い事ではすまされません。
仕事を教えようと思ってやり方を注意したら拗ねてしまったり、お客様に叱られたら次の日から出社しなくなってしまったり、そういう新人さんを身近に見てきました。なかには、そのまま辞めてしまった人もいますので、こうした感受性の強い人、傷つきやすい人がいるということを理解して、言葉かけの工夫をするなど、少しでも気持ちよく働けるように対策を取る必要があります。今は面倒くさい人が増えているのだ、ということを自覚して当たらないと結局は自分自身に跳ね返ってきて、自分の首を絞めることになってしまいます。ずいぶんと人間関係が大変になりました。
感情的な人を生み出す社会
では、どうして、傷つきやすい人が多くなったのか。著者は、感情的な人を生み出す社会の原因として、先の見えない報われない雰囲気、効率性の重視、あらゆる仕事の感情労働化、子どもの心を育てない親の過保護、ネガティブな経験と向き合わないボジティブ信仰、人間関係の経験の乏しさ、SNSで監視しあう鬱陶しさ、攻撃性が加速するネット空間、感情反応を煽るマスコミ報道、などを挙げています。
なかでも、少し考えさせられたのは、「子どもの心を鍛えない過保護な親や学校」の部分です。すぐに落ち込んだり、カッとなったり、感情的になりやすいのは、小さなころから感情をコントロールするという練習が十分にできていないからと指摘します。
例えば、自分の思い通りにならなくても「我慢する」とか、上手くいかなくても「諦めずに挑戦する」とか、人ともめたときは自分の主張を通すだけではなくて「相手と折り合いをつける」とか、そういう経験をする機会が、今の子どもたちに十分にあるのかと心配になります。
また、「ほめて育てる」子育てが主流になって、「叱られる」「怒られる」という経験が少ないため、社会に出て、上司からキツく言われるとすぐに心が折れてしまう人が増えているのではないかと。失敗をして、始めて自分の良くないところに気づいて成長できるものですが、失敗をする機会がなければ気づきも得られず、結局は感情が成長していないのではないかと思います。大人になってから感情を成長させるのは大変なことです。
自分の中の「傷つきやすい私」へ
本書では傷つきやすい心のメカニズムも分かりやすく解説されています。誰でも、心の中に「傷つきやすい」部分を持っているものです。日によって、大胆にふるまえる日もあれば、くよくよしたり周りの目が気になって仕方なくなったり、同じ一人の人間の中にも多様な「自分」がいます。
そんな「傷つきやすい自分」を否定するのではなくて、その性質を逆に生かして、傷つきやすいから人に対しても配慮できる、心配性だから事前にしっかりと準備ができる、神経質だから書類の細かいチェックができる、というようにポジティブに捉えて生かしていくことが大切だということです。
そういう風に自分自身を考えることができれば、周りの傷つきやすい人の言動も理解しやすくなるように思います。本書の最終章では、傷つきやすい人との向き合い方が書かれていますが、相手を変えようとするのではなく、自分自身の対応を変えていけば、相互作用が働いて、相手も変わっていくとされています。
言葉かけや態度など、簡単にはいきませんが、それでも、傷つきやすい人がなぜそう感じるのか、そう考えるのかに思いをはせれば、その人の長所を認めて応援することもできるように思います。
人の心は水のようで一定の形におさまりません。自分の心も同じだということに気づいて、相手も自分も認めていくのが生きやすさの一歩なのではないかと思いました。そして、子どもたちには感情を育てる経験が必要なのだ、ということを改めて感じました。
なに不自由なく、ではなくて、ちょっと不自由に育ててみたいものです。
2023年3月3日 読了