ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

橋爪大三郎『面白くて眠れなくなる社会学』_感想

 

学校では習わない社会学という学問

 本書の題名が「面白くて眠れなくなる社会学」となっているので、少し誤解を招きそうですが、英語のタイトルは「Sociology For Young Adults」でこちらの方が内容に合致しています。中高生向けに書かれた社会学の入門書です。

 社会学という分野は、数学や英語、理科や国語とは違って、高校生までの教育課程では学ぶ機会がありません。大学に行って初めて「社会学」なる学問が登場します。学校で習う社会科や公民、倫理社会とは性質が異なり、人間の営む社会の一部を切り取って社会全体を考察しようとするものです。時には歴史学や哲学、経済学や心理学、精神分析ともつながっていると著者は言います。「科学と科学でない世界のぎりぎりのところを科学の側から考えていく学問」ということで、大勢の人に共通している事柄から法則性を見出して世界の仕組みを理解しようとする学問だと言えます。

 そうした少しあいまいな社会科学の考え方を使って、身近なテーマを読み解いて理解しなおそうと提案しているのが本書になります。難しい言葉や専門用語は一切使われていませんので、中学生もあっさりと読める内容になっています。大人には少し物足りない表現もあるかもしれませんが、改めて私たちの周りの「社会」というものがどのように成り立っているのかを考えさせられる内容で、巻末に紹介されている参考文献にも目を通してみたいと思いました。もう少し詳しく知りたいな、と思わせる入門書になっています。

分かっているようで実は分かっていなかったこと

  本書は、「言語」「戦争」「憲法」「貨幣」「資本主義」「私有財産」「性」「家族」「結婚」「正義」「自由」「死」「宗教」「職業」「奴隷制カースト制」「幸福」「読書案内」の章からなっていて、どれも私たちに身近でよく知っている概念を改めて分かりやすく説明してくれています。大人なら、そんなこと知っているし、というものもありますが、意外と知らないこともたくさんあるのだと気づきました。

 私が特に面白いな、と思ったのは「宗教」の章です。宗教が、そこに暮らす人々の文化の源泉になっていることは世界共通で、著者いわく、いわば宗教はパソコンでいうところのOSみたいな役割を社会の中で果たしているとの説明があり、これには、なるほど、と深く同意しました。宗教は、その社会のOSですので、OSが変わればアプリケーションもかわるし、時にはハードウェアも変わるわけです。人間はまっさらな状態で生まれてくるけれど、生まれてすぐに、その社会のOSをインストールすることによって社会の一員として「人」なっていくわけです。そして、宗教というOSを通して人は過去と未来を繋げてとらえているわけなのですね。

 過去も現在も、世界で起きている戦争は、その原因の一端が「宗教」に始まっています。そして、おそらくこれから先に起きる戦争も、「領土」や「金」と同じように「宗教」が原因となるのでしょう。そのくらい、宗教というものが私たちのアイデンティティの基礎となっていて、人々の暮らしに根深く存在しているのだということです。日本人は信仰心が篤くないといいますが、年末には除夜の鐘を聞いて、お正月には初詣に行くし、お墓参りもするし、クリスマスも祝えば、辻々のお地蔵さんにも手を合わせます。それが私たちのOSで、根本には自然を畏怖する心や祖先を祀る風習が根付いているのです。そして、そうした風習にまつわる行事やイベントが、いわゆる文化というものに発展していきます。そのように考えると、世界の構図を理解するためには、まずその基本である「宗教」を知らなくてはいけないのではないか、と思えてきました。

 そんなわけで、さっそく巻末の読書案内の中から宗教関係の著書を読んでみようと思っています。社会学は、世界を知る窓のような学問なのでしょうかね、自分の意識が少し拡がった気がしています。

 

2024年2月23日 読了