ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

今井芳昭『影響力 その効果と威力』_感想

 

身近にある様々な影響力

 私たちの社会は人と人との関わりあいの中で成り立っており、常に他の人から影響を受けながら自分というものが存在しています。本書は、影響力がある、というのはどういうことなのか、なぜ私たちは影響を受けてしまうのか、という疑問に社会心理学の観点から分かりやすく解説されています。社会心理学の研究成果も多数紹介されていますので、社会学や心理学の入門書としても興味を持って読み進めることができます。特に、集団における影響力というテーマでは、日常の交渉事や組織での意思決定など、なぜそうなるのかということが影響力という側面から解き明かされていて大変参考になりました。

 さて、影響力の基本は、私たちの脳が賞を獲得し罰を回避するようにプログラムされていることから、「賞影響力」と「罰影響力」がベースとなります。お手伝いをしたらお小遣いがもらえるとか、勉強しなかったら遊びに行けない、などです。これは賞罰のコントロール力を持つ人から持たない人への影響力になります。次に、専門的な情報を持っていることや、高い地位にいることも影響力を持つことにつながります。有識者の意見が尊重されて支持されるのはそのためです。それらが合わさると「権威」となり、社会的に大きな影響力となります。また、芸能人やスポーツ選手など、受け手が魅力や好意を感じる人も、その人の意思とは無関係に影響力をもちます。ファッションリーダーやSNSでバズってる人などが大きな影響力を持つのは、受け手側の要因によるものが大きいといえます。このほかにも影響力を持つ人と繋がりがあることによって生じる対人関係影響力、相手の共感を誘う共感喚起影響力、自分と相手の役割に基づいて相手に決められた行動を取るように働きかける役割関係影響力があると紹介されています。

誰でもが影響を与え合っている

 影響を受けるかどうかは与える側はなく受け手側の認識に依存していると著者は言います。芸能人のインスタを見て自分も同じものを買うとか、隣のテーブルの会話を聞いてランチのメニューを決めるとか、そういう影響はいうなれば受け手が勝手に自分にとって得になると考えて行動しているだけのことです。しかし、集団内では、影響の受け手と与え手が相互に影響しあいます。集団で作業を行うと一人で作業するよりも一人当たりの作業量が何故か落ちてしまう、自分の考えとは違っていても選ぶ人が多い方を選んでしまう、など集団では互いに影響しあうために非効率な選択が行われてしまうことがあるようです。

 そして、通販サイトの構成を例に挙げて、私たちがモノを選ぶ際に重要視していることは、実は自己の「コントロール感」であることが説明されています。私たちは何かを決める際に、無意識に自分のかけた時間や手間が多い方を選んでいるようで、例えば通販サイトでは、商品の説明に加えて、売り上げナンバーワンとか、使用者の口コミなどを読んで、自分自身が納得して選んだのだという感覚を得られるように作られています。こうした自分自身が考えて選んでいるというコントロール感は、私たちの精神的健康にとても重要な要素のようです。消費者は、自分で好きなものを好きなように選んでいるという感覚を無意識のうちに与えられているのかも知れません。

 これまで、自分の考えは自分が決めたり判断したことのみで構成されていると思っていましたが、実際は周りの環境や人間、情報から様々な影響を受けて出来上がっているのだということに気づきました。そして、人間関係の中では自分自身も相手に何らかの影響を与えていて、それがまた自分自身にフィードバックしているのだと思います。そのように考えると、例えば会社の組織や、家族の関係なども、少し捉え方が変わってきます。会議や交渉の場でも、自分が何に影響されるのかを知っておくと、より冷静に判断できそうです。

 

2023年11月10日 読了