ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

下重暁子『極上の孤独』_感想

 

一人になるとホッとするあなたに

そろそろ年末、忘年会やパーティーなど人と集まる機会が多いシーズン。ここ数年はコロナの影響で大勢で集まることは稀ですが、まあそれでもお正月には家族が揃ったり、久しぶりに友人と飲んだりすることが増えますよね。そうやって人とたくさん話した後に、一人で電車に乗って帰る時間がなんとなく好きです。一人になるとホッとするという方には、この本はわかりみの多い一冊かと思います。

著者は当時の売れっ子アナウンサー、NHKの女子アナからフリーになって、そのあとは執筆活動を中心に歳を重ねて、政府機関の重役を務めたりもして、本書を書いている当時は81歳の年齢。もう十分におばあちゃんと言ってもよい歳だと思いますが、なぜだか全然、年齢や性別を感じさせない文体で好感が持てます。そんな彼女が、一人の時間を大切にすることの意義を書いています。

孤独という言葉は、あまり良いイメージがなくて、特に晩年に家族を失ったあとに老後を一人で過ごすというと、とても寂しいような侘しいような感覚になります。でも、本書を読むと、一人になるとホッとするタイプの方なら共感できる部分がたくさん出てくると思うのですが、老後に向かう勇気が湧いてくるというか、もっと一人の時間を大切にしなければ、という気持ちになります。

孤独が人を育てる

本書に出てくるのは著者の等身大の姿。アナウンサーというテレビ業界の華やかな仕事に就いて、大恋愛をして、大失恋をして、本を書いて、俳句を読んで…という、少し一般人とは違う感じもしますが、著者の生き方が自然体で書かれています。そして、そうした人生をとおして、しみじみと「孤独が自分を育てたのだ」と振り返っています。

人の中で群れるのではなく、自分の考え方を持ち、自分で判断して行動する…著者の定義する孤独とは、こういうことかと思いますが、「孤独を知らない人には品がない」と言い切ってしまうくらい、自分一人で物事を考えて行動するということの覚悟や思い切り、カンの良さが、その人の性質を作っていると言います。

確かに、大勢の中にいるときの自分は、話していることも考えていることも、本来の自分とは少し違っているように思います。当然のことですが、周りに誰かがいる時は、無意識のうちに、その人が好むだろうか、その人が面白いだろうか、と考えて自分の発話や行動を選んでいます。これこそがコミュニケーションだと思いますし、そうやって相手の立場から見た自分も、自分であることには違いがないのですが、でも、確かに、それが本来の自分かと言われると少し違うようにも思います。

一人でいる時は、そういうことは気にしなくてよいので、とことん本来の自分で考えを深めることができます。文章を書いたり、絵を描いているときも、そんな感じですよね。孤独の中で自分と向き合う時間が必要なのですね。

群れず、媚びず、しずかに

仕事では職場の上司や同僚がいて、プライベートでは家族がいて、スマホを見れば見ず知らずの人が何かをつぶやいていて、なかなか自分だけになれる時間がありませんが、それでも群れず、媚びず、しずかに過ごす時間を毎日の生活の中で大切にしたいと思いました。

一人が寂しいのではなくて、一人で何もできないことが寂しいのです。大勢の中にいても、孤独を感じる時がありますが、そういう時の自分自身が何者でもない感覚が寂しいのだと思います。

とりあえず通勤時間とトイレ中は、自分だけの時間ということで。

 

2022年12月20日 読了