ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

田淵直也『最強の教養 不確実性超入門』_感想

 

予測できる未来と予測できない未来

例えば、とある町の人口は年間の出生数、死亡者数、転入者数から、ある程度の未来までは予測ができるのに対して、災害や疫病の流行などによる人口の喪失は、その可能性があることは理解していたとしても、あらかじめ予測ができません。不確実性とは、将来の出来事には「予測ができない」性質がもともと備わっているということ、そして、この不確実性があるということを前提に、そこから生まれるリスクをいかに制御できるかが、意思決定をするときの大切な要素であると著者はいいます。

私たちは何かを決める時、無意識に未来の予測を立てていると思いますが、実は自分が思っている以上に世の中は不確実なことであふれているようです。本書は、ちょっと目からウロコといいましょうか、とても示唆のある内容で、大変面白く読み進められました。物事を見る目が少し変わったような気がします。

ランダムウォークとフィードバック

著者は金融業界で活躍されていたので、リーマンショックやバブルの仕組みなどの実例がたくさん紹介されています。

まず、不確実性がある、ということの一つの要因として「ランダムである」ということがあります。サイコロを振って3の目がでる確率は計算できますが、3の目が出るかどうかは、たまたま出る時は出るし、出ない時は出ないし、ということで何か必然的な要因があるわけではありません。こうした因果関係のない予測不能性が世の中には溢れているという事実をまず認識する必要があるようです。例えば、サイコロのわずかな重心のずれや、その時の気温、湿度、投げられる角度、机の材質や摩擦など全ての情報を把握できるならば、次に投げた時に3の目が出るかどうかを予測できるという「ラプラスの悪魔決定論という考え方があります。決定論によると全ての出来事は因果関係によって成り立っているため、全ての未来は原理的には予測ができるというものです。しかし、現実には、私たちはラプラスの悪魔にはなれないし、因果関係のない(把握できない)ことがほとんどです。著者は量子力学の概念も引き合いに出しながら、すべての物事が予測できるという考え方は捨てなければならない、と説きます。

では、ランダムな出来事は、まったく見当がつけられないのか、というとそうではなく、ランダムな出来事のつながり(ランダムウォーク)により正規分布のパターンが生じる事象が多くあります。この正規分布の活用によって、リスクの大小を予測することが可能になり、例えば投資であれば、どこまでリスクが取れるのか、という判断材料になります。

ランダム性で説明できないもう一つの不確実性として、「べき分布」の性質があります。これは、平均から離れた極端な出来事が起こる確率は減ってはいくが正規分布ほどには減少しない、という性質です。その結果、起こりえないような出来事が、予測よりも頻繁に起こるということになります。これは、結果が結果を生む「フィードバック」によって、ある結果が生じたときに、その結果が原因となってさらに結果が再生産されるという自己循環が生じるからのようです。お金持ちが更にお金持ちになってしまう仕組みと同じですね。

予測は外れて当たり前

不確実性の紹介が少し長くなってしましましたが、では、予測できない社会を生き抜くにはどうすれば良いのでしょうか。

著者は、予測は外れて当たり前だという前提に立って、特定のモノに決め打ちをするのではなく、まずは数多くのアイデアを試して失敗をするなかで、上手くいく方法を伸ばしていくというやり方が有効だと紹介しています。そのためには、短期的な結果に振り回されず、小さな失敗を許容して、長い時間軸の中で大きな失敗を犯さないというやり方で「勝ちに行く」ことが重要です。何かの意思決定をするときも、常に不確実性が当たり前なのだということを念頭に、柔軟に方向を変えていくような進み方が良いのかもしれません。

実生活の中で、またビジネスの中で、私たちは小さな決断を繰り返して生きていますが、世の中は不確実なことで満ちているのだ、ということを認識して備えていくことが、これからも様々な場面で重要になるのではないかと思います。仕事の参考に、と思って読み始めた本書でしたが、その内容の広さと面白さに、思わず唸ってしまいました。

そんなわけで、自分に気づきを与えてくれる良書に出会えるかどうかも、ランダム性なわけですね。たくさんの失敗が成功を生むということを改めて念頭に置いて、不確実な現実と向き合っていきたいなと思いました。

 

2023年1月14日 読了