ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

中野信子『サイコパス』_感想

 

サイコパスというカテゴリー

 サイコパスと聞くと、人格異常者とか非情な犯罪者とか、どうしてもそういう過激な映画やアニメのイメージが払拭できないのですが、本書はサイコパスを脳の特性の一つと捉えて、身近な疾患(病気の場合もあれば単なる特性の場合もあるようですが)として紹介しています。アメリカでは全人口の4%がサイコパスの可能性があるとのことで、脳の発達上の特性の一つと捉えると、そんなに珍しいものでもないのかもしれません。

 サイコパス傾向の人の特徴は、痛みを感じにくく、平気で嘘をつける、その場の雰囲気で適当な話を上手く繕うことができる、衝動的、冷徹、決断力がある、などなどイメージとしては知的で冷血な人という感じですが、実際は色々なタイプがあるようです。どこまでが性格で、どこまでが脳の特性なのか、境目がはっきりとはしませんが、脳の働きによって、痛みを感じなかったり、他者に共感できなかったり、他の発達特性と重なる部分も多々あるようです。本書は映画や犯罪報道などで先行しているイメージをちょっと引き戻して、脳科学の視点からサイコパス傾向とはどういうものかを解説しています。脳の特性の一つのカテゴリーに過ぎないと考えれば、例えば職場の上司がサイコパス的でも、そういう性格(特性)の人もいるやんな、と納得ができます。

サイコパスは遺伝か生育環境か

 サイコパス傾向の高い人の脳では、偏桃体の活動が低いため恐怖や不安を感じにくいという特性があります。恐怖や不安という感情は動物が危険を回避して生き残るために不可欠な感情だったと思いますので、ここだけを見ると偏桃体の活動が高い方が生き残る確率が高くなります。そうすると、サイコパス傾向の人の遺伝子が次世代に引き継がれる確率も低くなり、相対的にサイコパス傾向の人は少数派となるはずです。

 一方で、幼少期の被虐待体験や親との関係性などが脳の機能に影響を与えることも明らかになってきており、サイコパス傾向の人が、その傾向を強める原因として生育環境も関係しているようです。このように遺伝的な特性と生育環境が合わさって、いわゆる犯罪者のような強い性質を持ったサイコパス傾向の人が残ってきたのではないかと思います。そして、それが脳の機能疾患の一つなのであれば、他の発達特性と同様に今後もなくなることはなく、人間の特性の一つのカテゴリーとして残っていくのではないかと思います。

勝ち組サイコパスと負け組サイコパス

 著者は、社会的に成功しているサイコパス傾向の高い人を勝ち組サイコパス、犯罪者などになってしまった人を負け組サイコパスとして紹介しています。例えば、アップルの創始者であるスティーブ・ジョブズ氏は勝ち組サイコパスではないか、マザー・テレサも勝ち組サイコパスではないか、などなど。実際のところは、脳内を調べたわけではないので想像でしかないようですが、彼らの行動力や人前での話術、人の心を惹きつける求心力などが当てはまっているといいます。要するに、彼らが普通の人の感覚とは少し違う感覚の持ち主である、ということになるかと思うのですが、そうやって社会の中で自分の脳の特性を生かして活躍する人々も多くいるというわけです。

 自分自身がサイコパス傾向が高いかどうか、という点についてもチェックリストが紹介されていますので、ある程度は自己診断ができます。ふり幅の違いはあるにしても、誰でもが多少は衝動的な面や残酷な考え方を持っていると思いますので、あくまでも傾向が強いか、弱いかという比較の話ではあります。

 もしも、職場の上司がサイコパス傾向の高い人だったら、自分の子どもにそういう傾向が強くあったら、あるいは自分自身がサイコパス傾向に当てはまっていたら…特に焦る必要はありません。そういう特性があるということを理解して対応していけばよいだけのことです。サイコパスが特別ということではないようです。

 それにしても、私の中でのサイコパスのイメージはハンニバルに登場するレクター博士なので、もしあんな人が身近にいたら、怖くて恐ろしくて、夜も眠れないと思いますが。

 

2023年9月30日 読了