ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

長山靖生『不勉強が身にしみる 学力・思考力・社会力とは何か』_感想

 

なぜか不勉強な私たち

 とある資格を取ろうと思いたって久しぶりに勉強というものを始めてみたものの、体力が落ちているのか、忍耐力がどこかに行ってしまったのか、それとも日々の暮らしに余裕がなさすぎるのか、とにかく進捗しないまま半年が過ぎてしまいました。思えば学生のころからそうであったような…。子どものころに何故もっと真剣に勉強しなかったのかと悔やんでいる大人の何と多いことでしょうか。

 「不勉強が身にしみる」の言葉通り、大人になればなるほど歳を重ねれば重ねるほど、自分がいかに小さくて無知であるかを思い知らされます。かくいう著者も学校の勉強というものに関心が持てずに授業中は好きな小説を読んで過ごしていたそうで、おそらく多くの人が漫画を読んだり、今ならスマホをいじったり、なぜか学校の勉強には集中できていなかった人が多いように思います。なぜなのか。本書は、学ぶとはどういうことなのかを改めて考えるきっかけになりました。

ゆとり教育は間違いだったか

 本書の中で、著者はゆとり教育の弊害を述べています。ゆとり教育は、それまでの詰込み型の教育からの方向転換として、狭義には2002年度から2010年度くらいまで行われました。小中高とも授業時間が大幅に削減され、教科書も薄くなり、知識を詰め込むことこら、考えることに主眼を置く指導となりました。成績評価もクラスの中での相対評価から個人の絶対評価となるなど、競争することが求められなくなり、結果として学力の低下を招く原因になったとも言われています。

 その後、学習指導要領が改定されて今度は逆に教科書が分厚くなり授業時間数も大幅に増えて、ゆとり教育の揺り戻しの時代になります。そして、今の子どもたちは、ゆとりでも詰込みでもない「主体的で協働的な学び」という新しい教育にシフトしています。さらにはコロナ危機を契機として、タブレット端末が全小中学校に導入され、デジタル教科書の使用も進みました。宿題はプリントやドリルではなく、タブレット画面で作成して、夜のうちに先生に送信して提出します。今話題になっているchatGPTのようなAIを小学生が使いこなす日もすぐそこだと感じます。

 こうして国の方針で変遷してきた学校の勉強ですが、著者はゆとり教育への転換自体が間違っていたわけではないと言います。ただ、学習の到達度合いをテストの点数ではなく、本人の意欲や思考力、表現力で評価しようとしたところが、いつの間にか学校システムによって人間を全人格を含めて評価するという方向に転換してまったことに問題があったと指摘しています。また、ゆとり教育がそれまでの知識詰込み型教育に対抗して「自ら考え、自ら学ぶ」ことに重点が置かれてきたことについても、自ら考えるということは、ベースとなる知識があって初めて可能となることであり、知識の習得と深い思考は切り離せるものではないと指摘します。自分の考えを伝えようと思えば、まずは言葉を知らなくてはなりません。いわゆる「詰込み」が後々の「創造性」を育むのだということです。

好きなことを仕事にしたいなら

 今の親世代が子どもに期待することは何でしょうか。創造性を発揮してほしい、自分らしく生きてほしいと願う親も多いと思います。しかし、現実には、「個性的でありたい」と願うことが社会に適合できるとは限りませんし、かえって生き辛さを生むことにもなりかねません。「好きなこと」を仕事にするのであれば、「好きなこと」をするためには、「不愉快なこと」「辛いこと」「好きじゃないこと」も沢山経験しなければならず、それも含めて「好きなこと」である必要があります。他者からの客観的な評価を受け入れて自分を改善していかなくてはなりません。ある意味でそれは過酷な競争でもあります。入社して数年で離職する若者も多いと聞きますが、果たして「好きなこと」は見つかるのだろうかと心配になります。大抵の人が「別に好きじゃないけどやりがいがある仕事」を選んでやっていけるのは、やはり基本的な教育を受けた成果ではないでしょうか。

 著者は、「学ぶこと」は、「好きなことを見つける」こと、「人から客観的な評価を受ける」こと、「嫌いなことも理解して一定の水準に達する努力をする」こと、この3つのバランスがとれないと伸びないものだといいます。自分自身を育てるには、愛すると同時に、甘やかさず厳しくすることも必要です。自分らしく生きるためには、当たり前のことを当たり前に努力すること、そして、学校での学びはそのためのトレーニングであったかもしれないと思います。

 改めて、大人の学びなおしをするのであれば、楽しいことと同じくらい苦しいことも経験する覚悟を持って取り組まねば、と思いました。本当に不勉強が身にしみます。辛いなあ。

 

2023年11月2日 読了