フェイスブック社が社名を「Meta」に変更すると発表した。「Meta」とは「Metaverse=メタバース」の「Meta」である。では「メタバース」とは何か? ITに関するわかりやすい説明に定評のある岡嶋裕史氏(中央大学教授)が、その基礎知識から未来の可能性までを解説。「メタバース」は第四次産業革命に匹敵する変革を我々の日常にもたらすのか? はたまた、ただのバズワードで終わるのか?
世界を圧巻するGAFAMの次の商機が仮想空間
生活に未着している企業と言えば、もちろん地元の会社もたくさんありますが、本書に登場する、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフトはもはや不動の地位だといえます。
本書はこれらの企業が、SNSの次にやってくるとされるメタバース(仮想空間なのか拡張ARなのかミラーワールドなのかで若干違いがありますが)においてどのように主導権を握ろうとしているのか、その方向性が分かりやすく書かれています。
私たちの生活にインターネットやSNSは欠かせないものですが、もし、ゲームのフォートナイトやあつ森の中で、働いたり学んだりすることが可能になれば、リアルよりもずっと過ごしやすく、自分の心地よいものだけに囲まれた世界で生きることが可能になるかもしれません。メタバースはその可能性を提示する「もう一つの世界」になりうるものだと筆者は言います。
誰もが自分の正義を持つ世界
現在社会は個々の多様性が何よりも重視され、「人と違ってみんないい」ことが強く推奨されている社会です。しかし、「自由」と「平等」は、実は相性が悪いのだと筆者は言います。個々が自由にふるまえば必ず個体差が生じて平等にはなりませんし、全体を平等にしようと思えば自由が制限されてしまいます。現在は、誰もが自分自身の規範を作り、それをもとに自分だけの正義を持っている時代ですが、対立する関係にあっては、私の正義はあなたの不正義になりかねないと筆者は警告しています。そこで相手に折れることは、自分の正義を失うこと、つまり自分のアイデンティティが迷子になることと同じなので、私たちは戦いつづけるしか道はないのです。
そんな時に、自分と同じような価値観や意見を持つ人だけで構成される世界があったら、どんなに魅力的でしょうか。もうその世界に沈み込んで、出たくなくなるのではないでしょうか。そこが安全で快適で仕事もできて自分自身が認められる世界であったなら、もうリアルは必要ありませんね。
リアルと仮想のハイブリットか、まったく別の世界か
フェイスブックは社名をメタに変更して、現実世界とは異なる仮想空間を構築することで商機を生み出そうとしています。これに対して、アップルやグーグルは、仮想と現実とのハイブリットな社会で存在感を示そうとしているようです。マイクロソフトに至っては、ハイブリットな社会の企業活動への進展において、アマゾンは仮想だろうがリアルだろうが、必要とされる商品を手堅く売る、というふうに、それぞれ思惑は違っているようですが、いずれにしても、リアルとは違う世界が今後ますます重要になっていく点はどの企業も同じ認識のようですね。
子どもたちに聞いてみますと、例えば、ゲームの世界で学校に行って卒業して、その中で仕事も見つけるのであれば、それで十分だと言います。特に、急速にコロナとGIGAが合わせ技で子どもたちの環境を大きく変化させている中で、仮想現実に全く違和感を感じないようです。
そんなに遠くない未来に、グーグルグラスをつけて仕事をしたり、メタバースで副業をしたりしている社会が現実になっているように思います。それは、そんなに違和感のある突飛な取り組みではなくて、なるべくしてなるというか、実は誰もが求めている社会なのかもしれないと思います。
今のリアルが少し息苦しく思うのは、自由が重くなりすぎていて、夢が溢れすぎていて、人と違うことが求められすぎているからかもしれません。何者でもないただの自分が、大きな声を挙げなくても存在できる世界に憧れているのかもしれませんね。
昨今のトレンドワードである「メタバース」について、大変勉強になる一冊でした。
2022年1月24日 読了