ROBOBO’s 読書記録

読んだ本の感想です。

蓮実香佑『「植物」という不思議な生き方』_感想

 

ぜんぜん知らなかった植物の世界

緑色が鮮やかな季節、花や木が身近にあるだけで、なんとなく癒されます。そんな身近な植物ですが、実は私たちとは真逆の生き方をしていて、知らないことがたくさんある不思議な存在なのだということに気づかされます。

本書は、農学博士で道草研究家の著者が、植物を擬人化?して、その生き方をドラマ仕立てで解説しています。昔、理科の授業で聞いたことがあるような生物の単語でも、すんなりと読めて楽しく理解できるので、隙間時間にちょこちょこ読んでいるうちに気づけば読了していた、という感じです。読後は、知らなかった植物の世界を身近に感じられて、庭の草木も頼もしく見えてきます。考えてみると、植物という生き物は、動かないし、光合成をするし、二酸化炭素を吸って酸素を出すし、他の生物と比べると違うところがたくさんあります。でも、植物があるおかげで今の地球環境が形成されていること、その恩恵を最大限に受けているのは人間をはじめとする動物です。

環境保全の代名詞みたいになった植物、静かなようで熱い植物の生き方を知ると、環境というものをまた違った視点で捉えることができて面白いと思いました。

雑草はなぜ刈っても刈っても伸びてくるのか

紹介されてるエピソードの一つに雑草はなぜ伸びてくるのか、というものがあります。著者によると、雑草というのは、いざ種をまいて芽を出させようとするとなかなか上手くいかない植物なのだそうです。でも、庭の隙王です間に、アスファルトの陰に、気づいたら知らないうちに伸びているのが雑草。庭の雑草を抜いても抜いても、しぶとく生えてくるのは何故なのか、雑草の種の持つ性質が隙間を狙って生えるように進化したからのようです。

通常、植物の種は、水と温度と光が一定の条件になると芽が出てきます。その中でも雑草の種は、赤い波長と緑の波長を見分けて、赤い波長が一定の量に達したときに発芽するようプログラムされているそうです。緑の波長がたくさんあるということは、周りに他の植物がたくさん生えているという合図。雑草は他の植物が好まないニッチな環境で生き延びるために、他の植物が少ないタイミング、つまり赤の波長がふんだんに注いでいるときに発芽して成長します。やがて庭の地面がたくさんの雑草で覆われると、人間がせっせと草を抜いて、ふたたび雑草にとって好都合な赤い波長の光が降り注ぐ空間が出現します。そして、雑草はまた発芽して成長して…この繰り返しのため、庭から雑草が無くなることはないのだということです。人間がいるからこそ雑草があるわけですね。

したたかに環境を変えていく

他にも、昆虫と植物の関係や、植物の持つ毒性など、これまで知らなかった植物の生きるための攻防が紹介されていて面白いです。

印象的だったのは、植物と地球の関係です。地球が生まれたばかりのころ、有毒ガスに覆われていた大気のなかで、それをエネルギーにする生物が生まれました。そして光合成をおこなう生物が誕生し、大気の中に酸素が登場します。何億年もかけた生物の進化の中で、地球の環境は少しづつ変化していったわけです。当初の生物にとって、酸素は有毒物質でしたが、やがて酸素を使ってエネルギーを生み出す生物が現れます。そして地球は、今のようなたくさんの生物の住処になりました。私たちが植物の緑に癒しを感じるのは何かDNAに刻まれているからかもしれません。

そして、今また、地球の環境が大きく変わろうとしています。人間は、とてもじゃないけれど、そんな責任は負えないだろうし、植物のように静かにしたたかに環境を変えていくという技量もないのだろうと思います。

考えれば考えるほど、生物って凄いな、と感心するばかりです。

人間は、ひとまず、庭の雑草と折り合いをつけるところから修行を始めないといけませんね。

 

2023年6月10日 読了